日本製鉄
Nippon Steel Corporation⚡ 電炉転換8,687億円(政府採択・2025年5月)と水素還元Super COURSE50(CO₂削減43%達成)を両輪に「低炭素×高機能鋼材」での差別化戦略を推進——2028年以降のCBAM川下製品拡大提案が自動車用高級鋼に波及するリスクも
日本製鉄はCBAM(炭素国境調整措置)の本格適用(2026年1月〜)において、高炉製造プロセス由来の直接排出(Scope 1)が炭素コスト負担として顕在化することへの対応を迫られている。2025年5月30日、GX推進法に基づく「排出削減が困難な産業における製造プロセス転換支援事業」に採択され、総投資8,687億円(政府支援最大2,514億円)で九州(八幡)・広畑・山口の3拠点に大型電炉を新設・増設・再稼働させることを決定。2028〜2029年度に稼働し、年間約290万トン(合計GXスチール供給量約160万トン)の電炉転換を実現することで、CO₂排出量を約370万トン削減する計画だ。並行して君津地区のSuper COURSE50試験炉でCO₂削減43%を2024年度に達成し、水素還元技術のロードマップを着実に前進させている。さらに2025年6月にはカナダ東部Kami鉱山の新規鉱区開発に向けた経済性調査合弁会社への出資も決定し、水素直接還元製鉄(DRI)向け高品位鉱石の安定調達基盤を構築中だ。
🎯 主な取り組み・施策
- 2025年5月30日:電炉転換計画(総投資8,687億円・政府支援最大2,514億円)をGX推進法採択を受け正式決定——九州製鉄所八幡(電炉新設)・瀬戸内製鉄所広畑(電炉増設)・山口製鉄所(電炉改造・再稼働)の3拠点で2028〜2029年度稼働予定
- Super COURSE50:東日本製鉄所君津地区の試験炉でCO₂削減43%を2024年度に達成(最終目標50%以上削減・NEDO・グリーンイノベーション基金採択)
- 2025年6月:カナダ東部Kami鉱山の新規鉱区開発に向けた経済性調査合弁会社への出資を決定——水素直接還元製鉄(DRI)向け高品位鉱石の調達基盤を構築
- 波崎研究開発センター(茨城県神栖市)で高さ60mの試験シャフト炉(DRI試験炉)の建設完了・2025年度より試験開始——2040年頃の水素DRI実機化に向けた実証実験
- 同社の説明(2025年5月)によれば、worldsteel(世界鉄鋼協会)のGXスチールに関するガイドライン第1版の発行や、ISO等の国際機関へのGXスチールの理解活動に参画し、牽引してきた
⚠️ 継続する課題・リスク
- •高品質スクラップ・DRIの安定調達:電炉転換後の原料(電炉の主原料はスクラップ鉄+直接還元鉄DRI)を確保するためのグローバルな争奪戦が激化している。特に高級鋼製造に不可欠な低不純物スクラップの確保と、現状ほぼ商流のないDRIの安定調達体制構築が電炉転換の実効性を左右する。
- •CBAM証書の排出量データ算定・検証体制の構築:2026年1月の本格適用以降、EU輸入者がCBAM証書を購入する際の基礎データとなる「製品ごとの実際の排出量(EUの算定方法に準拠)」を第三者検証付きで提供する体制が必要。デフォルト値(マークアップ付き)を避けるための実測値提供体制の構築は事務コストが高く、日本製鉄のEU向け輸出部門での早急な対応が必要。
- •川下製品CBAM拡大提案(2028年〜)への対応:2025年12月の欧州委員会提案(三者協議中)が採択されれば、自動車用鋼材等を経由した間接的なCBAM影響が顕在化。日本製鉄の高付加価値鋼材の主要顧客である自動車メーカーがCBAM対象となる場合、調達先の炭素強度が競争力指標となるため、より一層の低炭素化圧力が連鎖する。
- •GXスチール市場形成の速度不確実性:電炉転換の投資回収には「GXスチールのCO₂削減価値が市場価格に反映される市場」の形成が前提。政府の措置(GX2040ビジョン等)が具体化する速度と、自動車・インフラ等のGXスチール需要創出のペースが想定を下回った場合、8,687億円の投資回収期間が長期化するリスクがある。
【GRI編集部コメント】
日本製鉄のCBAM対応の中心は、GX推進法の政府支援を受けた電炉転換(総投資8,687億円)と、水素還元技術の開発です。電炉転換の正式決定は、規制対応にとどまらず、低炭素の製造能力を競争力につなげようとする経営判断といえます。Super COURSE50での43%削減の確認も、水素還元の方向で成果が出ていることを示しています。一方で大きなリスクは、同社自身が「最大の課題」とするGXスチール市場が形成されなければ、投資の回収が見通せないという点です。CBAMはEU向け輸出でGXスチールの価値を価格に反映させる仕組みになりえますが、日本の主要顧客(自動車・電機・インフラ)がGXスチールの調達に動くかどうかは、国内のカーボンプライシング政策と市場形成の速度に大きく左右されます。GRIを読む日本の調達・法務担当者にとっての示唆は、CBAMの川下製品拡大案(107品目、2028年からの適用を提案、三者協議中)の行方です。採択されれば、鉄鋼素材だけでなく自動車部品・機械類まで低炭素調達の要求が広がります。
CBAMのスケジュール・川下製品拡大提案の採択状況・GXスチール市場形成の進捗は変化します。最新情報は欧州委員会公式サイトおよび日本製鉄公式IRをご確認ください。
