企業対応事例集 - 鉄鋼×CBAM

🏢 鉄鋼×CBAM 企業対応事例

この規制テーマに関する各企業の具体的な対応状況、戦略、直面する課題を整理しています。

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炭素国境調整措置(EU CBAM)

管轄・地域欧州連合 (EU)
主要タイムライン2023年10月〜2025年12月は移行期間(報告義務のみ)。2026年1月1日から本格適用(2026年の輸入分から証書償却の対象)。CBAM証書の販売は2027年2月1日から、初回の年次申告・償却の期限は2027年9月30日。
主な規制対象・影響範囲セメント、電力、肥料、鉄鋼、アルミニウム、水素の6部門(CBAM規則附属書I)。鉄鋼・アルミニウムの下流製品への拡大は欧州委員会の提案(COM(2025)989、適用開始案は2028年1月1日)で、理事会は2026年6月12日に合意、欧州議会は2026年9月15日に立場を採択し、三者協議中です。
GRI 規制サマリ

CO2排出の価格差を国境調整する実質的な「炭素税」。EU域外の生産設備における実排出データの精緻な算定と第三者検証、EU ETS価格に連動した課税が特徴です。

📊 規制対応ポジショニング・マトリクス(GRI分析)

企業PositionResponse TypeSC ImpactGRI Insight
日本製鉄リスク直面設備・技術投資High (高)高炉CO2直接影響に対応するため電炉転換やSuper COURSE50へ8,687億円投資推進。
ArcelorMittalリスク直面設備・技術投資High (高)ETS負担と輸入競争に対応。XCarb®拡大やEAF転換を進めるがドイツDRI計画は断念。
JFEスチールリスク直面設備・技術投資High (高)革新電炉3,294億円投資やカーボンリサイクル高炉開発により、CO2排出量削減を本格化。

日本製鉄

Nippon Steel Corporation
日本鉄鋼
適応・整備中

⚡ 電炉転換8,687億円(政府採択・2025年5月)と水素還元Super COURSE50(CO₂削減43%達成)を両輪に「低炭素×高機能鋼材」での差別化戦略を推進——2028年以降のCBAM川下製品拡大提案が自動車用高級鋼に波及するリスクも

日本製鉄はCBAM(炭素国境調整措置)の本格適用(2026年1月〜)において、高炉製造プロセス由来の直接排出(Scope 1)が炭素コスト負担として顕在化することへの対応を迫られている。2025年5月30日、GX推進法に基づく「排出削減が困難な産業における製造プロセス転換支援事業」に採択され、総投資8,687億円(政府支援最大2,514億円)で九州(八幡)・広畑・山口の3拠点に大型電炉を新設・増設・再稼働させることを決定。2028〜2029年度に稼働し、年間約290万トン(合計GXスチール供給量約160万トン)の電炉転換を実現することで、CO₂排出量を約370万トン削減する計画だ。並行して君津地区のSuper COURSE50試験炉でCO₂削減43%を2024年度に達成し、水素還元技術のロードマップを着実に前進させている。さらに2025年6月にはカナダ東部Kami鉱山の新規鉱区開発に向けた経済性調査合弁会社への出資も決定し、水素直接還元製鉄(DRI)向け高品位鉱石の安定調達基盤を構築中だ。

🎯 主な取り組み・施策

  • 2025年5月30日:電炉転換計画(総投資8,687億円・政府支援最大2,514億円)をGX推進法採択を受け正式決定——九州製鉄所八幡(電炉新設)・瀬戸内製鉄所広畑(電炉増設)・山口製鉄所(電炉改造・再稼働)の3拠点で2028〜2029年度稼働予定
  • Super COURSE50:東日本製鉄所君津地区の試験炉でCO₂削減43%を2024年度に達成(最終目標50%以上削減・NEDO・グリーンイノベーション基金採択)
  • 2025年6月:カナダ東部Kami鉱山の新規鉱区開発に向けた経済性調査合弁会社への出資を決定——水素直接還元製鉄(DRI)向け高品位鉱石の調達基盤を構築
  • 波崎研究開発センター(茨城県神栖市)で高さ60mの試験シャフト炉(DRI試験炉)の建設完了・2025年度より試験開始——2040年頃の水素DRI実機化に向けた実証実験
  • 同社の説明(2025年5月)によれば、worldsteel(世界鉄鋼協会)のGXスチールに関するガイドライン第1版の発行や、ISO等の国際機関へのGXスチールの理解活動に参画し、牽引してきた

⚠️ 継続する課題・リスク

  • •高品質スクラップ・DRIの安定調達:電炉転換後の原料(電炉の主原料はスクラップ鉄+直接還元鉄DRI)を確保するためのグローバルな争奪戦が激化している。特に高級鋼製造に不可欠な低不純物スクラップの確保と、現状ほぼ商流のないDRIの安定調達体制構築が電炉転換の実効性を左右する。
  • •CBAM証書の排出量データ算定・検証体制の構築:2026年1月の本格適用以降、EU輸入者がCBAM証書を購入する際の基礎データとなる「製品ごとの実際の排出量(EUの算定方法に準拠)」を第三者検証付きで提供する体制が必要。デフォルト値(マークアップ付き)を避けるための実測値提供体制の構築は事務コストが高く、日本製鉄のEU向け輸出部門での早急な対応が必要。
  • •川下製品CBAM拡大提案(2028年〜)への対応:2025年12月の欧州委員会提案(三者協議中)が採択されれば、自動車用鋼材等を経由した間接的なCBAM影響が顕在化。日本製鉄の高付加価値鋼材の主要顧客である自動車メーカーがCBAM対象となる場合、調達先の炭素強度が競争力指標となるため、より一層の低炭素化圧力が連鎖する。
  • •GXスチール市場形成の速度不確実性:電炉転換の投資回収には「GXスチールのCO₂削減価値が市場価格に反映される市場」の形成が前提。政府の措置(GX2040ビジョン等)が具体化する速度と、自動車・インフラ等のGXスチール需要創出のペースが想定を下回った場合、8,687億円の投資回収期間が長期化するリスクがある。

【GRI編集部コメント】

日本製鉄のCBAM対応の中心は、GX推進法の政府支援を受けた電炉転換(総投資8,687億円)と、水素還元技術の開発です。電炉転換の正式決定は、規制対応にとどまらず、低炭素の製造能力を競争力につなげようとする経営判断といえます。Super COURSE50での43%削減の確認も、水素還元の方向で成果が出ていることを示しています。一方で大きなリスクは、同社自身が「最大の課題」とするGXスチール市場が形成されなければ、投資の回収が見通せないという点です。CBAMはEU向け輸出でGXスチールの価値を価格に反映させる仕組みになりえますが、日本の主要顧客(自動車・電機・インフラ)がGXスチールの調達に動くかどうかは、国内のカーボンプライシング政策と市場形成の速度に大きく左右されます。GRIを読む日本の調達・法務担当者にとっての示唆は、CBAMの川下製品拡大案(107品目、2028年からの適用を提案、三者協議中)の行方です。採択されれば、鉄鋼素材だけでなく自動車部品・機械類まで低炭素調達の要求が広がります。

CBAMのスケジュール・川下製品拡大提案の採択状況・GXスチール市場形成の進捗は変化します。最新情報は欧州委員会公式サイトおよび日本製鉄公式IRをご確認ください。

ArcelorMittal

ArcelorMittal S.A.
ルクセンブルク鉄鋼
適応・整備中

⚡ ETS無償割当廃止と高コスト電力確保に伴う水素還元鉄投資の課題

ArcelorMittalはEU域内に大規模な製鉄拠点を持つ鉄鋼メーカーとして、EU ETS・CBAM(炭素国境調整措置)・顧客の低炭素要求という三つの圧力を受けている。2025年6月19日、同社はブレーメン・アイゼンヒュッテンシュタット拠点でのDRI-EAF計画を進められないと発表し、2025年6月までの着工を条件とするドイツ政府との€1.3Bの支援契約について、投資を進められないことを正式に通知した。同社は理由として、グリーン水素がまだ実用的な燃料ではなく、天然ガスによるDRI生産も暫定策として競争力がないこと、需要の弱さと輸入の多さ、ドイツの電力価格の高さを挙げている。一方、スペインではセスタオ工場(EAF2基)で2026年までに年産160万トンへの増産を計画し、ヒホン工場で2024年5月に年産110万トンのEAFの建設に着手した(同社の説明、2024年11月)。フランス・ダンケルクでは、2025年5月に€1.2Bの投資意向を表明したのち、2026年2月10日に年産200万トンのEAFの建設を確定した(投資額€1.3B。同社の2026年2月の発表では2029年稼働予定)。2026年4月30日のQ1決算では、CBAMと新しい関税割当(TRQ)による欧州の政策環境の「構造的なリセット」を前向きに評価している。TRQは規則(EU) 2026/1384により2026年7月1日から適用されている。

🎯 主な取り組み・施策

  • 2025年6月19日:ドイツ・ブレーメンおよびアイゼンヒュッテンシュタットのDRI-EAF計画を進められないと発表し、€1.3Bの支援契約について政府に正式に通知。欧州CEOのGeert van Poelvoorde氏は、財政支援があってもこの転換を進めるビジネスケースは十分ではないと説明
  • フランス・ダンケルク:2025年5月に€1.2Bの投資意向を表明し、2026年2月10日に年産200万トンのEAFの建設を確定(投資額€1.3B。同社の2026年2月の発表では2029年稼働予定。投資の50%を省エネ証書(CEE)で支援)
  • スペイン・セスタオ工場(EAF2基・フラット製品):2026年までに年産160万トンへの増産を計画。完成後は生産の多くをXCarb®の低炭素鋼材とする方針(同社の説明、2024年11月)
  • スペイン・ヒホン工場(ロング製品):2024年5月に新EAF(年産110万トン、CO₂削減は年100万トンの見込み)の建設に着手
  • XCarb®:炭素フットプリントは最低で鋼材1トンあたり300kg。同社は2024年11月時点で、2024年の販売量を約40万トンへ倍増させる見通しを示していた

⚠️ 継続する課題・リスク

  • •ドイツの高い電力コスト:ブレーメン・アイゼンヒュッテンシュタットでは、EAFによる生産のビジネスケースが成り立つ状況に備えて、EAF建設の詳細な計画を進める段階にとどまる。同社は、ドイツの電力価格は国際的にも近隣国と比べても高いと説明している。
  • •グリーン水素の商業化:同社は、グリーン水素はまだ実用的な燃料ではなく、天然ガスによるDRI生産も暫定策として競争力がないと説明している。Fastmarketsの報道(2025年6月25日)によれば、同社は欧州の水素価格を1kgあたり約€5-8としており、業界関係者は製鋼で採算をとるには€2.50-3.00が必要としている。
  • •輸入とCBAM・TRQの実効性:Fastmarketsが引用したEuroferのデータによれば、2024年のEUの炭素鋼の輸入量は前年比6.4%増の2,636万トンで、関係者の推計では欧州の鉄鋼消費に占める輸入の割合は約30%だった。TRQ(2026年7月1日から適用)とCBAMの組み合わせがどこまで輸入を抑えるかが問われる。同社は2026年2月の発表で、CBAMに残る抜け穴をできるだけ早く塞ぐよう求めている。

【GRI編集部コメント】

ArcelorMittalのケースは、CBAMという規制の複雑さを示しています。同社は2024年11月にCBAMの「重大な弱点」を指摘する一方で、低炭素鋼材XCarb®の販売を伸ばしてきました。2026年4月のQ1決算で、CBAMと新しいTRQによる欧州の政策環境の「構造的なリセット」を前向きに評価したことは、実際の規制適用が始まった段階での評価の変化を示しています。GRIを読む日本の鉄鋼・素材企業にとっての示唆は、ドイツでは進められなかった電炉投資が、フランスでは建設の確定に至ったという事実です。同社は、低コスト電力の見通しと確実性を提供できる国から新しいEAFを建設するとしており、電力コストと政策の確実性が大規模な脱炭素投資の前提になる構造は、日本のGXスチール政策を考えるうえでも参考になります。

CBAMとTRQの運用、欧州の電力コスト、水素価格は変化します。最新情報はArcelorMittal公式IRおよび欧州委員会公式サイトをご確認ください。

JFEスチール

JFE Steel Corporation
日本鉄鋼
適応・整備中

⚡ 大型電炉の新設投資と本格移行に向けた個別排出量証明体制構築

JFEスチールは2025年4月10日、西日本製鉄所倉敷地区に革新電気炉(EAF)を導入すると発表した。前日に政府の補助金交付が決定したことを受けたもので、総投資3,294億円(約22億ドル)のうち最大1,045億円を政府補助金(GX推進法に基づく支援)で賄い、年産約200万トン、2028年度第1四半期(2028年4〜6月)の生産開始を予定する。同社は、独自の高品質・高効率溶解技術と低炭素の直接還元鉄(DRI)を組み合わせ、既存の大型電炉では製造できない電磁鋼板・高張力鋼板などの高機能鋼材を世界で初めて大量に供給することを目指すとしている。原料のDRIについては、GMK Centerの分析(2025年9月)によれば、同社はエミレーツ・スチール(UAE)と年産250万トンのDRI工場の建設に投資している。千葉地区(東日本製鉄所)にはカーボンリサイクル高炉や小型電気炉などの試験設備を設け、実証試験を行っている(2025年4月時点)。電炉転換、DRIの確保、カーボンリサイクル高炉の開発を並行して進めている。CBAMの本格適用(2026年1月〜)により、EU向け輸出製品の炭素強度は、EU輸入者の証書コストに反映される。

🎯 主な取り組み・施策

  • 2025年4月10日:倉敷地区への革新電気炉の導入を発表(総投資3,294億円・政府補助金最大1,045億円)——年産約200万トン、2028年度第1四半期(2028年4〜6月)の生産開始予定
  • エミレーツ・スチール(UAE)との年産250万トンのDRI工場への投資(GMK Centerの分析、2025年9月)——電炉の原料となる低炭素の直接還元鉄の確保
  • 千葉地区(東日本製鉄所)にカーボンリサイクル高炉・小型電気炉などの試験設備を設け、NEDOグリーンイノベーション基金事業の実証試験を実施中(2025年4月時点)

⚠️ 継続する課題・リスク

  • •高機能鋼板の電炉量産技術の確立:電磁鋼板・高張力鋼板の電炉での大量生産は、同社が世界初として目指す挑戦であり、不純物制御・品質安定性・歩留まりという3つの技術的難関をスケールアップの中で解決する必要がある。量産技術の確立が遅れた場合、顧客向け供給計画・投資回収計画に影響する。
  • •UAE DRI原料の安定調達と物流:倉敷EAF(年産約200万トン)の原料の一部をUAEのDRI工場(年産250万トン、GMK Centerの分析)から調達する見込みだが、完成・稼働のタイムラインと輸送コスト・地政学リスクが調達安定性のリスク要因。高品質スクラップの国内争奪戦の激化も並行して進行している。
  • •CBAM証書の実測値提供体制の構築:2026年1月の本格適用で、EU輸入者に提供する「製品ごとの実際のCO₂の組込排出量(EUの算定方法に準拠、実測値の場合は認定検証機関の検証付き)」の算定・管理・提供体制の整備が必要になっている(初回の年次申告と証書償却の期限は2027年9月30日)。デフォルト値(マークアップ付き)の適用を避けることが、コスト面での競争力に直結する。
  • •並行CAPEX負担の長期化:倉敷EAF建設(3,294億円)・UAE DRI工場建設・カーボンリサイクル高炉実証(千葉地区)という3つの大型プロジェクトを同時進行させることの財務負担が長期化する。鉄鋼市況(中国過剰供給に伴う世界的な鋼材価格低迷)が悪化した場合のキャッシュフロー圧迫リスクがある。

【GRI編集部コメント】

JFEスチールのCBAM対応は、高機能鋼板の電炉量産という技術的な挑戦を軸にした長期的な差別化戦略です。同社は、既存の大型電炉では製造できない電磁鋼板・高張力鋼板などを世界で初めて大量に供給することを目指すとしており、実現すれば「低炭素」と「高品質」の両立につながります。ArcelorMittalがドイツでの脱炭素投資を進められなかったのに対し、JFEはGX推進法の政府支援を受けて投資を決めました。GRIを読む企業にとっての示唆は二点あります。第一に、倉敷EAFの稼働(2028年度予定)後は電炉製品の排出強度がCBAMのコストに反映されるため、EU向け自動車用・電機用鋼材の調達担当者は、サプライヤーのCO₂強度データを比較することになります。第二に、CBAMの川下製品拡大案(107品目、2028年からの適用を提案、三者協議中)が採択されれば、鉄鋼素材だけでなく製品レベルまで低炭素化の圧力が広がります。

CBAMのスケジュール・川下製品拡大提案の採択状況・EAF工場の建設進捗は変化します。最新情報はJFEスチール公式IRおよび欧州委員会公式サイトをご確認ください。