Apple
Apple Inc.⚡ 製品寿命延長を巡る設計適合と純正部品供給における権利保護
AppleはEU最大のスマートフォン・タブレットメーカーのひとつとして、スマートフォン・タブレット向けエコデザイン要件(規則(EU) 2023/1670。ESPR(規則(EU) 2024/1781)ではなく旧エコデザイン指令2009/125/ECに基づく規則で、2025年6月20日から適用)の直接適用対象となった。この要件はEPREL(欧州製品エネルギーラベルレジストリ)への製品登録・修理容易性スコアの公開・バッテリー耐久性ラベル・エネルギー効率ラベルを義務付けており、AppleはiPhone 16・iPad等の欧州販売製品についてEPRELへの登録と修理容易性スコアの開示を実施した(2025年6月)。しかし2026年4月のPIRG調査・EPRELフレームワーク下での評価では、AppleとSamsungが「低い修理容易性スコア」を受けたと報告されており、独立修理業者が全てのiPhoneコンポーネントにアクセスできるようにしているわけではないという根本的な課題が指摘されている。AppleのOEM認定修理プログラム(ARP)やiPhone純正部品ペアリング(parts pairing)制限——交換した部品がAppleのシステムで正規認証されないと一部機能が制限される仕組み——は、ESPRおよびEU修理権(Right to Repair Directive、指令(EU) 2024/1799)が求める独立修理業者へのアクセス保障という理念と根本的な緊張関係を生んでいる。ESPRの2025〜2030年ワーキングプランでは、修理容易性の水平要件(2027年頃、消費者向け電子機器・小型家電対象)の採択が予定されており、Appleはより厳格な義務化に向けた戦略的対応を迫られている。
🎯 主な取り組み・施策
- EPRELへのスマートフォン・タブレット登録(2025年6月義務化対応):iPhone 16・iPad等の欧州販売製品についてEPREL(欧州製品エネルギーラベルレジストリ)に修理容易性スコア・バッテリー耐久性ラベル・エネルギー効率情報を登録・公開
- Apple公式修理容易性情報ページの設置(regulatoryinfo.apple.com/repairability):EU規制要件に対応した製品修理情報の公式ポータルを設置し、スコアの根拠と修理オプション情報を開示
- 2022年から展開してきたセルフリペアプログラム(Self Repair Program)の欧州展開:iPhone 12以降の機種向けに純正部品・ツール・マニュアルを個人ユーザーに直接販売するプログラムをEU市場でも展開
- iPhone 16シリーズでの設計改善:リアガラスの交換コストを前モデル比大幅に削減する設計変更を実施——ただし依然としてパーツペアリングによる機能制限は維持
- Independent Repair Provider(IRP)プログラム:認定外の独立修理業者に対してもApple正規部品・ツール・マニュアルへのアクセスを提供するプログラムを拡大——ただし全コンポーネントへのアクセスは保証されていない
⚠️ 継続する課題・リスク
- •パーツペアリングのビジネスモデルとEU修理権の根本的衝突:Right to Repair Directive(指令(EU) 2024/1799)の国内法化期限(2026年7月31日)の経過後、パーツペアリングによる機能制限がEU法に抵触するかどうかの法的判断が問われる。Appleのエコシステム型垂直統合モデルの根本的な設計変更を迫られる可能性がある。
- •修理容易性スコアの構造的な低さの改善:修理容易性スコアは設計段階での意思決定(接着剤の使用・モジュール構造・スクリュー使用等)に起因するため、スコア向上には次世代製品の設計変更が必要。iPhone設計の抜本的見直しに数年単位を要する。
- •DPP義務化への準備:全製品・全モデルについてEU DPPレジストリと統合したデジタル製品情報管理システムの構築が必要。特にサプライチェーン上流(鉱物調達・製造委託先)からのデータ収集・標準化がボトルネックとなる。
- •EU独自要件と米国・日本等グローバル市場との設計統合:EU向けに設計変更した製品をグローバルに展開するか・EU専用設計とするかというジレンマ。修理容易性スコア要件・DPP・Right to Repair等のEU固有の義務に対応した製品をグローバルに展開すれば追加コストは最小化できるが、AppleのエコシステムビジネスモデルとのEU規制の衝突が深刻化するリスクがある。
【GRI編集部コメント】
AppleのESPRカードは「ファブレス型垂直統合エコシステムとEUの循環経済規制の根本的衝突」を示す最重要事例です。修理容易性スコアで「低評価」を受けたという事実は、Appleのハードウェアとソフトウェアとサービスをシームレスに統合するビジネスモデルが、EUの「修理可能・長寿命・部品交換可能」という製品設計理念と根本的に相容れない部分を持っていることを示しています。GRIを読む日本の電機・電子機器メーカーにとっての実践的示唆は三点あります。第一に、2025年6月に適用が始まったスマートフォン・タブレット向けエコデザイン要件(旧エコデザイン指令に基づく規則(EU) 2023/1670)は既に現実の義務であり、EPRELへの登録と修理容易性スコアの公開が欧州市場参入の前提条件となっている点。第二に、2027年頃に予定される修理容易性の水平要件は、スマートフォン以外の消費者向け電子機器・小型家電にも拡大する見通しであり、日本の電機メーカーが持つ製品ポートフォリオの大部分がカバー対象になる点。第三に、DPP義務化は、Appleのように既存のLCA・CFPデータを保有する企業でも「EU DPPレジストリとの技術統合」という新たな実装課題を生む点です。今から設計段階での修理容易性向上とデジタル製品情報管理体制の整備を開始することが競争優位の確保につながります。
ESPRの製品別委任立法・DPP義務化スケジュール・Right to Repair Directiveの国内法制化状況は変化します。最新情報はEPREL・欧州委員会Green Forum公式サイトをご確認ください。
