3M(スリーエム)は、1950年代からPFASを製造してきた米国の大手素材メーカーで、2022年12月に、2025年末までにPFAS製造から完全に撤退し、製品ポートフォリオ全体でもPFASの使用をやめるよう取り組むと発表した。同社は年次報告書で、2025年末にPFAS製造からの撤退を完了したと説明している。一方で、製品全体でのPFAS使用の中止は途中にあり、リチウムイオン電池、プリント基板、一部のシール・ガスケットなど、第三者が製造したPFAS含有品を使う製品は、2025年以降も残るとしている。環境NGOのChemSecは、3Mが過去3年で約7,000製品からPFASを除いた(およそ3分の1)一方、PFASを含む約1万4,000製品が引き続き製造されていると指摘している。撤退に伴い、Novec™などのフッ素系流体は最終受注が2025年3月31日、製造は2025年末に終わった。
🎯 主な取り組み・施策 PFAS製造から2025年末に撤退を完了(2022年12月に発表)。フッ素樹脂、フッ素系流体、PFAS系添加剤の製造をやめた Novec™シリーズ(フッ素系流体)の最終受注は2025年3月31日、製造は2025年末に終了(販売会社の案内) 米国の公共水道系との集団和解(2023年6月に合意、2024年3月に裁判所が承認)。総額105億〜125億ドルで、支払いは2024〜2036年 ニュージャージー州と和解(2025年5月)。最大4億5,000万ドルを支払う ベルギー・Zwijndrechtの工場周辺のPFAS汚染について、フランドル政府と対応で合意(2022年7月、総額約5億7,100万ユーロ) ⚠️ 継続する課題・リスク• 製品でのPFAS使用の継続:撤退後も、リチウムイオン電池、プリント基板、一部のシール・ガスケットなど、第三者製のPFAS含有部品を使う製品が残る。ChemSecは、PFASを含む約1万4,000製品が引き続き製造されていると指摘し、製造工程でのPFAS使用についての同社の説明は曖昧だとしている。 • 個人の健康被害をめぐる訴訟:公共水道系との和解は個人の請求を含まない。AFFF訴訟(MDL 2873)には、3Mを含む全被告の合計で約2万3,000件の訴訟が係属しており(2026年9月1日、個人の請求に限らない)、最初の代表事件の裁判は2025年10月の予定が取り消されて日程が決まっていない。包括的な和解には至っていない。 • ベルギーとオランダでの汚染:Zwijndrechtの工場を起点とするPFAS汚染について、フランドル政府と対応で合意したが、同政府は今後も措置を講じる権限を保持している。オランダ政府は2023年にスヘルデ川河口の汚染について3Mの責任を認め、2025年12月には周辺の事業者への支払いが善意の措置として報じられた。 • 代替流体もPFAS:Novec™から切り替えた顧客が使うGalden®やAsahiKlin™などの代替流体も、OECDの定義ではPFASにあたり、同様の規制の対象になり得る。 📢 2022年12月(PFAS製造からの撤退を発表)・2025年末(撤退を完了)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
3Mのケースは、PFASの製造をやめても、過去の製造・販売が生んだ責任は続くことを示しています。同社は2025年末に製造から撤退しましたが、米国の公共水道系との和解(総額105億〜125億ドル、2036年まで)、州との和解、ベルギー工場周辺の対応に加えて、個人の健康被害をめぐる訴訟も残り、費用と訴訟は長期にわたって続きます。また、製造をやめても製品からPFASがなくなるわけではありません。第三者製の部品を通じて、PFASは同社の製品に入り続けています。日本企業にとっての示唆は、川上の供給元が製造から撤退すると、代替の調達、コスト、性能の調整という連鎖的な負担が下流に及ぶことと、代替品もPFASにあたる場合があるため、代替の候補ごとにPFASへの該当を確認しておくことです。
訴訟・和解の状況は変わります。最新情報は3Mの公式IR資料とSEC提出書類をご確認ください。
DuPont DuPont de Nemours, Inc. 戦略的適応
DuPontは、医療、水処理、建設、輸送などの分野に材料を供給する米国の化学メーカーである。同社は、PFOA・PFOS・GenXは製造していないとしており、2019年の公約で、統合した事業での長鎖PFASの使用の廃止(2019年末まで)と、自社の拠点での消火剤のPFAS使用の廃止(2021年末まで)を掲げた。自社のPFASの使用量は世界の使用量のごく一部だとし、代替のある用途では代替を追求するとしている。一方、過去のPFAS汚染に関わる責任は、2015年のChemours、2019年のCorteva、2025年11月のQnity Electronicsの分離を経ても、企業の分離では消えていない。2021年の覚書(MOU)に基づき、2015年7月より前の行為に起因する将来のPFAS債務を、Chemoursが50%、DuPontとCortevaが合わせて50%を分担しており、Qnityの分離でも、PFAS債務を含む一部の債務が契約でQnityに割り当てられた。
🎯 主な取り組み・施策 2019年の公約の発表で、PFOA・PFOS・GenXは製造していないとしたうえで、統合した事業での長鎖PFASの使用廃止(2019年末まで)と、自社拠点での消火剤のPFAS使用の廃止(2021年末まで)を公約 Chemours・Cortevaとの2021年のMOUに基づき、2015年7月より前の行為に起因するPFAS債務を分担(Chemours 50%、DuPontとCorteva計50%)。期限は2040年末、または適格支出が40億ドルに達するまでの早い方 公共水道系との和解(2023年6月、3社合計11億8,500万ドル)でDuPontは約4億ドルを負担 ニュージャージー州との包括和解(2025年8月、25年間で総額8億7,500万ドル)でDuPontは35.5%(現在価値で約1億7,700万ドル)を負担 電子材料事業をQnity Electronicsとして分離(2025年11月1日)。PFAS債務を含む一部の債務がQnityに割り当てられた ⚠️ 継続する課題・リスク• 個人の健康被害をめぐる訴訟:公共水道系や州との和解は、個人の健康被害の請求を含まない。DuPont・Chemours・Cortevaが費用を分担する仕組みのもとで、係属中の訴訟や将来の請求の負担が続く。 • 分担相手の負担能力:MOUの費用分担では、相手の負担が難しくなった場合の影響が、DuPontの費用にも及び得る。 • 分離後の債務の割り当て:PFAS債務を含む一部の債務が契約でQnityに割り当てられた一方、DuPontに割り当てられた債務について第三者がQnityの責任を問う可能性もあり、Qnityは、DuPontの補償が十分でない可能性を自社の報告書で挙げている。 • EU制限での位置づけ:DuPontはFPGの会員だが、FPGの自主プログラムの参加企業ではない。EU制限の帰趨は、EU市場向けの製品を通じて事業に影響し得る。 📢 2021年1月(費用分担のMOU)・2025年8月(ニュージャージー州との和解)・2025年11月(Qnityの分離)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-30
【GRI編集部コメント】
DuPontのケースは、企業を分離しても、過去のPFAS責任は消えないことを示しています。同社はChemours、Corteva、Qnityと分離を重ねてきましたが、2021年のMOUに基づく費用の分担と、分離契約による債務の割り当てが続くため、責任は複数の企業に分かれたまま長く残ります。責任が複数の法人にまたがるほど、誰がどの費用を負うのかが外から見えにくくなります。日本の化学・素材企業にとっての示唆は、「PFASを製造していない」ことと「PFASのリスクがない」ことは別であり、事業の分離や買収の際には、過去のPFAS債務の帰属を契約で確認しておく必要があるということです。
和解の内容や費用の分担、Qnityとの債務の割り当ては変わる可能性があります。最新情報はDuPont・Qnity・Chemoursの公式IR資料とSEC提出書類をご確認ください。
ダイキン工業 Daikin Industries, Ltd. 戦略的適応
ダイキン工業は、空調機器に加えてフッ素樹脂やフッ素ゴムなどのフッ素化学製品を世界で製造する大手メーカーで、半導体、自動車、医療、空調・冷凍などの産業に材料を供給している。欧州のフルオロポリマー業界団体(FPG)の会員で、FPGは制限案からフルオロポリマーを全面的に除外するよう求めているが、2026年3月のRAC最終意見はフルオロポリマーを制限の対象に含めた。同社は世界の製造拠点で排水中のPFAS回収に3億ドル以上を投じ、米国・欧州のフッ素ポリマー製造では重合乳化剤の99%回収を達成して、全工場で回収率99.9%を目指している。製法の面では、フッ素系界面活性剤を使わないフッ素ゴム(FKM)の生産を2025年に始めた。一方、2012年までPFOAを製造していた淀川製作所(大阪府摂津市)の周辺では地下水のPFOA汚染が続いており、同社は地下水の揚水・浄化に加えて、2023年から敷地外への流出を防ぐ遮水壁の工事を進めている。2025年12月には周辺住民が同社を相手に公害調停を申し立て、同社は「建設的な対話を通じて対応を検討する」とコメントしている。
🎯 主な取り組み・施策 世界の製造拠点で排水中のPFAS回収に3億ドル以上を投資。米国・欧州のフッ素ポリマー製造で重合乳化剤の99%回収を達成し、全工場で回収率99.9%を目指す フッ素系界面活性剤を使わないフッ素ゴム(FKM)の生産を2025年に開始。半導体製造装置のシール材などに使うFFKMでも、新工場(2026年生産開始予定)に同様の生産ラインを構築 FPGの自主プログラムに欧州拠点が参加し、重合助剤由来のPFAS排出削減目標(2024年末:大気0.009%・水0.001%)を達成 淀川製作所で地下水の揚水・浄化(2009年〜)と、敷地外への流出を防ぐ遮水壁の工事(2023年〜)を実施。対策費は450億円を超える 淀川製作所の周辺住民向けに、7月11日までに相談窓口を設ける方針を示した(2025年6月) ⚠️ 継続する課題・リスク• EU制限でのフルオロポリマーの扱い:RACは、フルオロポリマー自体の有害性の証拠は限られると認めつつ、製造・廃棄の段階で非ポリマーのPFASが排出されるとして制限の対象に含めた。製造の継続が認められる場合も、RACは排出上限の設定を最も適切な条件としている。 • 淀川製作所周辺の地下水汚染:遮水壁の工事が進む一方で、周辺の井戸のPFOA濃度は下がっていないと報じられている(2025年10月)。住民は2025年12月、工場内の汚染状況の開示、健康調査、補償を話し合う協議会の設置などを求めて大阪府公害審査会に公害調停を申し立て、2026年5月の第2次の申し立てで申立人は約1,100人になった。企業を相手にしたPFAS関連の公害調停は初めてとされる。 • 国内規制の強化:水道法の水質基準にPFOS・PFOA(合計50ng/L)が加わり(2026年4月施行)、国内でもPFAS対策への目が厳しくなっている。 📢 2023年(遮水壁の工事開始)・2025年(界面活性剤を使わないFKMの生産開始)・2025年12月(住民による公害調停の申し立て)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
ダイキン工業のケースは、PFASのリスクが「これからの規制」と「過去の汚染」という二つの時間軸で同時に現れることを示しています。欧州では、業界団体を通じてフルオロポリマーを制限から外すよう求めながら、排水からの回収や界面活性剤を使わない製法で製造時の排出を減らしています。一方、国内では、10年以上前に製造を終えたPFOAによる地下水汚染への対応が続き、対策費は450億円を超え、2025年12月には周辺住民による公害調停も始まりました。フッ素材料を調達する日本企業にとっての示唆は、主要サプライヤーの製法転換の進み具合と、EUの制限でフルオロポリマーにどのような条件が付くかを、調達コストと供給の継続性の両面から見ておくことです。
EUの制限でのフルオロポリマーの扱いや、淀川製作所周辺の対策の状況は変わる可能性があります。最新情報はダイキン工業の公式発表とECHAの公式サイトをご確認ください。
Chemours The Chemours Company 戦略的適応
Chemoursは2015年にDuPontから分離した化学メーカーで、Teflon™(フッ素樹脂)、Nafion™(イオン交換膜)、Opteon™(低GWP冷媒)などのフッ素化学製品を手がける。分離の際に過去のPFAS汚染に関わる責任の多くを引き継ぎ、DuPont・Cortevaとの2021年の覚書に基づいてPFAS関連の費用を分担している。同社は2030年までに、製造工程から大気と水へのフッ素系有機化合物(FOC)の排出を2018年比で99%以上減らす目標を掲げ、2025年のサステナビリティ報告書で80%削減を報告した。一方で、GenXによる汚染が問題となってきたノースカロライナ州のFayetteville Worksでは、半導体・電池・防衛に欠かせないとしてビニルエーテルの増産を認める大気許可の改定を2025年8月に申請し、下流の自治体などが反対している。
🎯 主な取り組み・施策 製造工程からのFOC排出を2030年までに2018年比99%以上減らす目標を掲げ、80%削減を達成(2025年サステナビリティ報告書) Fayetteville Worksでビニルエーテルの増産を認める大気許可の改定を申請(2025年8月)。追加の排出削減設備により、施設全体のフッ素系排出は2021年比で約15%減ると説明 DuPont・Cortevaとともにニュージャージー州と包括和解(2025年8月、25年間で総額8億7,500万ドル)。Chemoursの負担は50%(現在価値で約2億5,000万ドル)。あわせて、PFAS関連の保険金を受け取る権利をDuPont・Cortevaに1億5,000万ドルで譲渡 FPGの自主プログラムに欧州拠点(Chemours Netherlands)が参加し、重合助剤由来のPFAS排出削減目標(2024年末:大気0.009%・水0.001%)を達成 ⚠️ 継続する課題・リスク• 増産と排出削減の両立:Fayetteville Worksの増産申請には、下流のウィルミントン市、ニューハノーバー郡、ケープフィア公益事業局が2025年11月に反対決議を出し、州環境品質局の審査が続いている。 • 過去の汚染に伴う費用:分離時に引き継いだPFAS関連の責任について、DuPont・Cortevaと費用を分担しながら、和解金の支払いが長期にわたって続く。 • EU制限でのフルオロポリマーの扱い:RACはフルオロポリマーを制限の対象に含め、製造の継続が認められる場合は排出上限の設定を最も適切な条件としている。 • 残る排出の削減:2030年の99%目標までには、2018年比でさらに約19ポイントの削減が必要になる。 📢 2025年8月(ニュージャージー州との和解・増産申請)・2026年8月(2025年サステナビリティ報告書の公表、排出80%削減)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
Chemoursのケースは、PFASをつくり続ける企業が、排出の削減と生産の拡大を同時に説明しなければならない立場にあることを示しています。同社は工程排出を2018年比で80%減らした一方で、汚染が問題となってきた工場での増産を申請し、増産後も施設全体の排出は減ると説明しています。加えて、DuPontから引き継いだ過去の汚染の費用が、長い期間にわたって財務に影響します。半導体や水素関連でフッ素材料を調達する企業にとっての示唆は、主要サプライヤーの増産計画が地域の反対や許可の行方に左右されることを、供給の継続性のリスクとして見ておくことです。
Fayetteville Worksの許可審査や和解金の支払いの状況は変わる可能性があります。最新情報はChemoursのIR資料とノースカロライナ州環境品質局の公表資料をご確認ください。
AGC AGC Inc. / AGC Chemicals Europe 戦略的適応
AGCはガラスや化学品を手がける素材メーカーで、化学品事業ではフッ素樹脂(PTFE、ETFEなど)、フッ素ゴム(AFLAS®)、フッ素系溶剤(AsahiKlin™)を製造している。欧州向けのフッ素樹脂は英国の子会社AGC Chemicals Europe(ソーントン=クレベリーズ)が製造しており、同社はFPGの会員として、フルオロポリマーを他のPFASとまとめて規制すべきではないと主張してきたが、2026年3月のRAC最終意見はフルオロポリマーを制限の対象に含めた。3MがNovec™の製造を終えたことで、ハイドロフルオロエーテル系の溶剤AsahiKlin™ AE-3000はNovecの代替として使われているが、この溶剤もOECDの定義ではPFASにあたる。製法の面では、界面活性剤を使わないフッ素樹脂の製造プロセスを開発し、界面活性剤とフッ素系の重合溶媒を使わないFFKM(AFLAS®)の新グレードを発売した。一方、英国の工場では旧ICI時代のPFOA排出をめぐる行政の調査が進み、国内では2026年6月、千葉県市原市のAGC千葉物流センターの敷地内と近くの公園の観測井戸で、国の指針値を超えるPFOS・PFOAが検出されたと市が発表した。AGCは、原因や移動経路は特定されていないとしている。
🎯 主な取り組み・施策 フッ素系溶剤AsahiKlin™ AE-3000を、3MのNovec™撤退後の精密洗浄などの代替として供給 界面活性剤を使わないフッ素樹脂の製造プロセスを開発し、界面活性剤とフッ素系の重合溶媒を使わないFFKM(AFLAS®)の新グレードを商業化 英国子会社AGC Chemicals EuropeがFPGの自主プログラムに参加し、重合助剤由来のPFAS排出削減目標(2024年末:大気0.009%・水0.001%)を達成 英国ソーントン=クレベリーズの工場で、旧ICI時代のPFOA排出をめぐる行政の合同調査に協力し、自社でも敷地を調査 千葉物流センター敷地内の地下水で、社内調査で指針値の超過を確認し、千葉県・市原市に報告(2025年7月) ⚠️ 継続する課題・リスク• 代替溶剤もPFAS:AsahiKlin™ AE-3000はOECDの定義でPFASにあたり、EUの制限案の対象になり得る。Novecから切り替えた顧客が、再び代替を迫られる可能性がある。 • EU制限でのフルオロポリマーの扱い:RACはフルオロポリマーを制限の対象に含めた。英国で製造した製品も、EU市場で販売するものは制限を受ける。 • 国内外の拠点での汚染調査:英国の工場では旧ICI時代のPFOA排出の調査が続き、国内では市原市が、千葉物流センター敷地内での再調査や原因究明、対策を同社に求める方針を示している。検出値は、敷地内の井戸で最大6万ng/L(指針値の1,200倍)で、飲用には使われていない。 📢 2025年3月(FPGの排出削減目標の達成)・2026年6月(市原市の調査結果の公表)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-30
【GRI編集部コメント】
AGCのケースは、PFAS規制への対応が「供給する製品」「製法」「拠点の過去」の三つの層で同時に問われることを示しています。3Mの撤退で需要が移ったフッ素系溶剤は、それ自体もPFASにあたるため、規制のリスクは残ったままです。一方で、界面活性剤を使わない製法やFFKMの新グレードは、製造時の排出を減らす具体的な技術です。国内外の拠点では、過去の排出によるPFAS汚染の調査も続いています。Novecからの切り替えを進める日本企業にとっての示唆は、代替品がPFASに該当するかを確認し、もう一度の切り替えも見込んで、PFASを使わない選択肢を並行して評価しておくことです。
EUの制限でのフルオロポリマーやフッ素系溶剤の扱い、各拠点の調査の状況は変わる可能性があります。最新情報はAGCの公式発表とECHAの公式サイトをご確認ください。
Syensqoは、2023年にSolvayから分離して独立した特殊化学品メーカーで、フルオロポリマー(PVDF、PTFE、FKM、FFKMなど)と、フッ素系高性能流体のGalden® PFPEを手がけている。同社によると、フルオロポリマーの大部分を、フッ素系界面活性剤を使わずに製造している。イタリアのSpinetta Marengoでは、限られた量の次世代フッ素系界面活性剤(C6O4)を使っており、2026年までにほぼ100%を界面活性剤不使用の技術(NFS)に移す計画だ。2025年には、界面活性剤を使わない世界初のFFKM(Tecnoflon®)を市場に出した。一方、Galden® PFPEは、3MのNovec™撤退後の代替流体として案内されているが、PFPE自体もPFASにあたる。Spinetta Marengoでは、元工場長2人が過失による環境災害の罪で裁判にかけられることになり、米国ニュージャージー州のWest Deptford工場をめぐっては、州との和解で約3億9,300万ドルの支払いなどを約束している。
🎯 主な取り組み・施策 フルオロポリマーの大部分を、フッ素系界面活性剤を使わずに製造。Spinetta Marengoでも2026年までにほぼ100%の切り替えを目指す(同社の説明) 界面活性剤を使わない技術(NFS)で、世界初とするFFKM(Tecnoflon®)を2025年に発売。NFSのFFKMはSpinetta Marengoで製造 FPGの自主プログラムに参加し、重合助剤由来のPFAS排出削減目標(2024年末:大気0.009%・水0.001%)を達成 3MのNovec™撤退後の代替流体として、Galden® PFPEが案内されている(販売会社の案内) ニュージャージー州West Deptford工場をめぐる州との和解(2023年6月に和解案を発表)。約3億9,300万ドルの費用負担などで、周辺の浄化と天然資源の損害の補償を約束 米国ジョージア州Augustaで電池用PVDFの新施設を計画(2022年10月にDOEが約1億7,800万ドルの補助金の対象に選定。環境評価書の最終版は2026年7月に公表(表紙の日付は2026年3月)) ⚠️ 継続する課題・リスク• Galden® PFPEの規制リスク:Galden® PFPEもPFASにあたり、EUの制限案の対象になり得る。Novec™から切り替えた顧客が、再び代替を迫られる可能性がある。 • Spinetta Marengoの環境問題:2026年2月に公開されたプレプリント(査読前)は、この工場からのPFAS(新興PFASを含む)の排出と、水域・陸域の生態系への影響を調べたものである。イタリアでは、元工場長2人が過失による環境災害の罪で裁判にかけられ、初公判は2026年11月16日の予定である。報道によると、約300の民事の当事者が賠償を受けて手続から外れた(総額約250万ユーロ)。 • EU制限でのフルオロポリマーの扱い:RACはフルオロポリマーを制限の対象に含めた。製造工程のPFASをなくしても、製品自体がPFASにあたる点は変わらない。 • 米国での過去の汚染:West Deptford工場周辺のPFAS汚染について、州との和解に基づく浄化などの費用負担が続く。 📢 2025年(NFSのFFKMを発売)・2026年(Spinetta Marengoの切り替え目標)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
Syensqoのケースは、「製造工程がPFASフリーかどうか」と「製品がPFASかどうか」が別の問いであることを示しています。同社は、フルオロポリマーの大部分を界面活性剤を使わずに製造するようになり、世界初とするFFKMも発売しました。しかしGalden® PFPE、PVDF、FFKMは、製造工程を変えても製品自体がPFASにあたり、EUの制限案の対象であることは変わりません。加えて、Spinetta Marengoでの過去と現在の排出をめぐる裁判や、米国での和解に基づく浄化など、拠点の責任も残っています。調達担当者にとっての示唆は、サプライヤーの製法転換を評価するときも、製品のPFAS該当と拠点の環境責任を別々に確認し、代替材料の評価を並行して進めることです。
工場の建設計画、裁判の進行、EU制限の審議状況は変わる可能性があります。最新情報はSyensqoの公式発表とECHAの公式サイトをご確認ください。
Arkemaは、Kynar® PVDFなどを製造するフランスの特殊化学品メーカーで、Kynar®はリチウムイオン電池や水ろ過などに使われるフルオロポリマーである。同社は2025年4月30日に、全ての生産拠点でKynar® PVDFの製造にフッ素系の界面活性剤を使わず、非フッ素系の界面活性剤だけを使うと発表した。リヨン南方のPierre-Bénite工場は、2024年12月末に最後のPFAS界面活性剤(6:2 FTS)の使用をやめており、2022年に導入したろ過設備で、水への排出を90%以上減らしていた。一方で、同工場の過去のPFAS排出をめぐっては、住民や環境団体との間で行政・司法の手続きが続いている。2026年1月には、リヨン圏の住民や団体などによる訴状が同社に送達され、同社は争う方針である。
🎯 主な取り組み・施策 全生産拠点でKynar® PVDFの製造からフッ素系界面活性剤をなくし、非フッ素系の界面活性剤だけを使うと発表(2025年4月30日)。従来のグレードと同等の性能。移行期間中はFSF®の表示で識別していたが、移行の完了により今後は使われなくなる Pierre-Bénite工場で、最後のPFAS界面活性剤(6:2 FTS)の使用を2024年12月末に停止。2022年に導入したろ過設備で、水への6:2 FTSの排出を90%以上削減 FPGの自主プログラムに参加し、重合助剤由来のPFAS排出削減目標(2024年末:大気0.009%・水0.001%)を達成 Pierre-Bénite工場で、PFAS界面活性剤を使わない第3のPVDF反応炉の運転を許可するローヌ県知事令(2024年5月14日)。住民団体の停止請求は却下され、コンセイユ・デタも2025年4月7日に申立てを退けた(取消しの手続は継続中) 米国ニュージャージー州のWest Deptford工場(旧所有者として)をめぐり、州環境保護局との和解に合意。報道では、3,395万ドルの支払いに加え、7,500万ドルの積立金の保証を含む(2025年8月の報道) ⚠️ 継続する課題・リスク• 裁判・調査の続行:2026年1月、リヨン圏の住民や団体などがPFAS被害を訴える訴状が同社に送達された。ほかにも、リヨン大都市圏の請求に基づき裁判所が任命した専門家3人による調査(2024年8月〜)があり、工業団地の複数の事業者を対象にPFASの発生源を分析している。同社は、Pierre-Bénite工場は排出規制を守っているとしている。 • 過去の排出をめぐる指摘:環境団体Notre Affaire à Tousは、政府の監察機関IGEDDの報告を引いて、年間約3.5トンのPFASがローヌ川に排出されていたと述べている(2023年)。県知事は、PFASに関する5件の命令で対応を求め、2023年6月の命令では、追加の環境調査と健康リスク評価も求めている。 • 国連からの通知:2026年3月、国連の特別手続が「化学の谷」のPFAS汚染に関する通知をArkema Franceなどに送り、同社は2026年5月12日に回答した。同社は、通知に事実と異なる主張が含まれるとしている。 • EU制限でのフルオロポリマーの扱い:RACはフルオロポリマーを制限の対象に含めた。製造工程からPFAS界面活性剤をなくしても、PVDFなどのフルオロポリマーが制限の対象に含まれる点は変わらない。 📢 2024年末(Pierre-Bénite工場で6:2 FTSの使用停止)・2025年4月30日(全生産拠点の非フッ素系界面活性剤化を発表)・2026年1月(訴状の送達)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
Arkemaのケースは、製造工程を変えても、過去の排出をめぐる責任と、現在の製品の規制は別に残ることを示しています。同社は全生産拠点でPVDFの界面活性剤の非フッ素化を終え、Pierre-Bénite工場でも2024年末に最後のPFAS界面活性剤の使用をやめました。一方で、同工場では過去の排出をめぐる訴訟、専門家による調査、国連からの通知が続き、米国でも旧所有者としての和解が進んでいます。日本企業の調達担当者にとっての示唆は、サプライヤーの製造工程のPFAS対策を評価するときに、現在の製法だけでなく、過去の排出をめぐる係争や調査の状況も含めて確認する必要があるということです。
裁判・調査の状況やEU制限でのフルオロポリマーの扱いは変わる可能性があります。最新情報はArkemaの公式発表とECHAの公式サイトをご確認ください。
BASFは、世界最大の化学メーカーで、製造工程で炭素-フッ素結合を合成しておらず、フッ素化学には携わっていないとしている。一方、PFASにあたる物質を配合した製品を、限られた数だけ持つとしている。同社は2023年5月にPFASに関する立場を採用し、農薬を除いて、PFASを配合した化学製品を段階的に廃止する方針を示している。廃止の期限は明示されていないが、社内のサステナビリティの手引きでは5年以内、つまり2028年までとされている(環境NGOのChemSecによる2025年11月の報道)。進み具合は、同社独自のTripleS(Sustainable Solution Steering)の手法で管理し、EUなどPFASを個別に規制する法がない地域でも、EUのPFAS制限案の範囲を適用するとしている。一方、2009年に買収したCiba Specialty Chemicalsが、2003年まで消火剤(AFFF)用のフッ素系界面活性剤を製造・販売していたことから、BASFはその法的な承継人として米国のAFFF訴訟の被告になっており、2024年5月には、公共水道系との集団和解に3億1,650万ドルを拠出することに合意した。
🎯 主な取り組み・施策 農薬を除き、PFASを配合した化学製品を段階的に廃止する方針を採用(2023年5月)。TripleS(Sustainable Solution Steering)の手法で進み具合を管理し、顧客に代替を提供 産業用設備でのPFAS使用については、可能で安全な範囲での代替を求める立場を表明(2025年11月) AFFF訴訟で、公共水道系との集団和解に3億1,650万ドルを拠出(2024年5月に合意。和解金3億1,250万ドルと管理費400万ドル。管理費は2024年7月、和解金は2025年3月に支払い) コーティング向けに、PFASを含む添加剤の代替となる添加剤(Efka®)を提供 ⚠️ 継続する課題・リスク• AFFF訴訟の残る請求:今回の和解は、2024年5月15日以降に初めてPFASが検出された公共水道系の将来の請求や、飲用水以外の請求(不動産の損害、雨水・排水の処理など)を含まない。個人の傷害、自治体・州の請求などの訴訟は別に係属しており(カナダでも2024年から)、同社は争う方針である。 • 買収で引き継いだ責任の範囲:2003年に売却された事業に由来する責任を、買収した企業が法的な承継人として問われる形になっている。同社は、和解が責任や不正行為を認めるものではないとしている。 • 廃止の期限と例外:廃止の期限は明示されておらず(社内の手引きでは5年以内)、農薬の有効成分は対象外である。同社は、PFASにあたる物質を配合した製品を、限られた数だけ持つとしている。 📢 2023年5月(PFAS配合製品の廃止方針)・2024年5月(AFFF訴訟の和解に合意)・2025年11月(廃止方針の報道)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
BASFのケースは、PFAS製造が事業の中心ではない企業でも、買収した企業の過去の事業に由来する責任が、財務上の現実になり得ることを示しています。2003年に売却された事業のPFAS界面活性剤をめぐる訴訟で、同社は3億1,650万ドルの和解に合意しました。一方で、同社は農薬を除くPFAS配合の化学製品を段階的に廃止する方針を掲げており、ChemSecは、主要なPFAS製造企業の多くが増産を計画するなかで、BASFを数少ない例外として挙げています。日本の化学企業にとっての示唆は、海外企業を買収するときは、過去のPFAS関連の債務がどこまで承継されるかを、法務・環境の両面から精査しておく必要があるということです。また、廃止の進み具合をTripleSのような仕組みで管理する方法は、PFASを製造しない企業にも参考になります。
訴訟の状況や廃止方針の内容は変わる可能性があります。最新情報はBASFの公式発表(年次報告書の訴訟に関する注記を含む)とECHAの公式サイトをご確認ください。
信越化学工業 Shin-Etsu Chemical Co., Ltd. 適応・整備中
信越化学工業は、半導体用シリコンウエハで世界トップクラスのシェアを持ち、フォトレジストやフォトマスクブランクスなどの半導体露光材料も手がける。1997年にKrFフォトレジストの生産を始め、ArFレジスト、多層膜材料、EUVレジストへと製品を広げてきた。フォトレジストの感光性を担う光酸発生剤(PAG)の多くはPFASを含み、SIAの半導体PFASコンソーシアムは、非PFASのPAGに置き換えるにはレジスト全体の配合を見直す必要があるとしている。EUのPFAS制限提案は、代替が難しい用途に、発効から18か月の移行期間のあと5年または12年(発効から計6.5年または13.5年)の期限付き適用除外を設ける構成で、一部の用途には期限のない適用除外も提案されている。半導体用途にどの期間が当たるかは、2026年末のSEAC最終意見とその後の欧州委員会の判断で決まる。同社は2024年4月、半導体露光材料の4番目の生産拠点を群馬県伊勢崎市に建設すると発表し、第1期(約830億円)は2026年4月に竣工、第2期工事にも着手した。
🎯 主な取り組み・施策 群馬県伊勢崎市に半導体露光材料の第4拠点を建設(2024年4月発表。第1期は約830億円で2026年4月に竣工し、第2期工事に着手) KrF・ArF・EUV向けのフォトレジストや多層膜材料など、半導体露光材料を半導体メーカーに供給 統合報告書で、シリコーン製品をPFASの代替を含む顧客の課題解決に役立つ材料と位置づけ ⚠️ 継続する課題・リスク• 非PFASの光酸発生剤への置き換え:発生する酸の強さや拡散の性質が変わるため、レジスト全体の再配合と性能の再確認が必要になる(SIA半導体PFASコンソーシアム)。 • 顧客での再認定:配合を変えたレジストは、半導体メーカーの量産ラインで改めて評価・認定を受ける必要があり、切り替えには時間がかかる。 • EU制限の適用除外の期間・条件:半導体用途にどの期間の適用除外が認められるかは未確定で、SEAC最終意見(2026年末見込み)と欧州委員会の判断を待つ段階にある。 • PFAS供給に関する開示への要請:環境NGOのChemSecは、同社が複数のPFASを含む難分解性の化学物質を米欧市場に供給しているとして、その用途と売上に占める割合を開示するよう求めている。 📢 2024年4月(伊勢崎新工場の発表)・2026年4月(第1期竣工)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
信越化学工業のケースは、PFAS規制が材料メーカーの「設備投資」と「材料そのものの設計」に同時にかかることを示しています。同社は伊勢崎で露光材料の生産能力を増やしていますが、主力のフォトレジストの多くは、PFASを含む光酸発生剤に依存しています。EUの制限で半導体用途に期限付きの適用除外が認められても、それは移行のための猶予であり、恒久的な許可ではありません。半導体メーカーや材料の調達担当者にとっての示唆は、使っているレジストについて、光酸発生剤がPFASに該当するかと代替品の開発状況を早めに確認し、切り替え時の再認定にかかる期間を計画に織り込んでおくことです。
EUのPFAS制限で半導体用途に認められる適用除外の期間・条件は未確定です。最新の審議状況はECHAの公式サイトをご確認ください。
富士フイルム FUJIFILM Corporation 日本 半導体材料(フォトレジスト・リソグラフィ材料)業界リード
富士フイルムは、写真フィルムで培った技術を生かし、半導体材料も手がける企業で、フォトレジストなどを供給している。ArF液浸露光用のフォトレジストでは、微細な回路パターンの描画に必要な酸の反応を効率よく起こすためや、ウエハー上の水残りによる欠陥を抑えるためにレジスト表面に撥水性を持たせる目的で、PFASが使われてきたと同社は説明している。同社は、2024年4月にPFASを含まないナノインプリント用レジストを発表し(販売は同年5月下旬から)、2025年7月には、PFASを一切使わないネガ型のArF液浸レジストを発表した。後者は、imecと共同で評価し、28nm世代の金属配線を高い歩留まりと高いスループットで形成できることを実証したとしており、2025年7月時点で顧客での評価が進み、早期の販売を目指すとしている。2026年4月には、PFASだけでなく、炭素-フッ素結合を持つ有機化合物を原材料に使わない、フッ素フリーのネガ型ArF液浸レジストを世界で初めて開発したと発表し、サンプルの提供を始めた。ArF液浸レジストについては、量産での採用の時期は示されていない。
🎯 主な取り組み・施策 PFASを含まないナノインプリント用レジストを発表し、2024年5月下旬から販売 PFASを一切使わないネガ型ArF液浸レジストを開発し、imecと共同で28nm世代の金属配線での性能を評価(2025年7月)。顧客での評価を進め、早期の販売を目指す 炭素-フッ素結合を持つ有機化合物を原材料に使わない、フッ素フリーのネガ型ArF液浸レジストを、同社は世界で初めて開発したと発表し、サンプルの提供を開始(2026年4月) ⚠️ 継続する課題・リスク• 量産採用が未確定であること:ArF液浸用の2つのレジストは、顧客での評価やサンプル提供の段階で、販売の時期は「早期」とされているだけである。 • 実証の範囲:2025年7月に公表された実証の結果は、28nm世代の金属配線である。より微細な工程などでの結果は、今後の開示を確認する必要がある。 📢 2024年4月(ナノインプリント用)・2025年7月(ネガ型ArF液浸用)・2026年4月(フッ素フリー品)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
富士フイルムのケースは、PFAS規制への対応が、製品の代替開発として具体的に進む例です。フォトレジストでは、酸の反応や表面の撥水性のためにPFASが使われてきたとされ、同社はPFASを含まない製品を段階的に発表してきました。2024年のナノインプリント用は販売が始まり、2025年のArF液浸用は顧客での評価、2026年のフッ素フリー品はサンプル提供の段階で、3つの製品の開発の段階は異なります。半導体材料の企業にとっての示唆は、代替品の発表と量産での採用は別であり、顧客での評価の進み具合を、製品ごとに分けて見る必要があるということです。
顧客での評価の結果や販売の時期は変わる可能性があります。最新情報は富士フイルムの公式発表をご確認ください。
レゾナックは、2023年に旧昭和電工と旧日立化成の統合で発足した素材メーカーで、半導体・電子材料では、高純度ガス、CMPスラリー、封止材などを扱っている。同社の高純度ガスには、半導体のエッチングや成膜装置のクリーニングに使うフルオロカーボンガス(C₄F₈、C₄F₆、C₃F₈、C₂F₆、CF₄)があり、これらはOECDの定義ではPFASにあたる。同じ製品群にある高純度のフッ化水素(HF)、フッ素・窒素混合ガス、四フッ化ケイ素(SiF₄)、六フッ化硫黄(SF₆)は炭素を含まず、フルオロメタン(CH₃F)は完全にフッ素化された炭素を含まないため、PFASにはあたらない。PFAS規制への対応として、統合報告書2024は、経営企画部が事務局となり、グループのPFAS利用の実態調査、影響規模の試算、顧客・規制の動向の収集と分析、代替品の開発や探索を進めていると記している。化学品マネジメントのページでは、PFASを含む社会課題に対応するポリシーを新たに制定し、含有管理対象物質を見直す計画を示しており、2026年の目標は「レゾナックポリシーの制定」である(制定は完了していない)。製品面では、フッ素系コーティング剤の代替として、UV硬化型の非フッ素系撥水撥油コーティング剤を提案しており(ページの更新日は2024年8月6日)、PTFEと静的接触角に有意な差はなく、同等の撥水撥油性を付与できると期待できるとしている(開発品)。半導体用のガスがEUのPFAS制限案でどう扱われるかは、制限の最終的な内容で決まる。
🎯 主な取り組み・施策 グループのPFAS利用の実態調査、影響規模の試算、顧客・規制の動向の収集と分析、代替品の開発・探索を、経営企画部が事務局となって推進(統合報告書2024) PFASなどを含む社会課題への対応として、レゾナックポリシーの制定と含有管理対象物質の見直しを計画(2026年のKPI目標。制定は未完了) UV硬化型の非フッ素系撥水撥油コーティング剤を、フッ素系コーティング剤の代替として電子機器メーカーに提案(ページの更新日:2024年8月6日)。コーティング事業では、PFASフリー製品の開発推進・拡販を掲げる ⚠️ 継続する課題・リスク• PFASにあたる製品の供給:エッチングや成膜装置のクリーニングに使うフルオロカーボンガスは、OECDの定義でPFASにあたる。EUの制限案での扱いは、制限の最終的な内容で決まる。 • 半導体工程での位置づけ:SIA(米国半導体工業会)のPFASコンソーシアムは2023年に、プラズマエッチング・成膜で使われるPFAS含有のフルオロケミカルに関する報告書を公表している。顧客の工程の変更や規制の内容が、これらのガスの需要に影響し得る。 • ポリシーの未制定:PFASを含む課題に対応する同社のポリシーは、制定を計画している段階で、方針・目標・期限は公表されていない。 📢 2024年8月(非フッ素系コーティング剤のページを更新)・2026年(PFASを含むレゾナックポリシーの制定を計画)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
レゾナックのケースは、PFAS規制の影響が、PFASを使う側だけでなく、PFASにあたる製品を供給する側にも及ぶことを示しています。同社は半導体のエッチングやクリーニングに使うフルオロカーボンガスを供給しており、これらはPFASにあたります。一方で、自社のPFAS利用の調査を進め、非フッ素系のコーティング剤を提案するなど、代替を提供する側の動きもあります。半導体材料の企業にとっての示唆は、自社の製品群のうち、どこがPFASにあたり、どこがPFASを使わない代替を提供できるのかを、製品単位で整理しておくことです。
本カードは、レゾナックの公開資料で確認できた範囲で記載しています。PFAS規制に関する同社のポリシーの制定状況や、EUの制限案での半導体用ガスの扱いは変わる可能性があります。最新情報はレゾナックの公式発表とECHAの公式サイトをご確認ください。
東京エレクトロン Tokyo Electron Limited 適応・整備中
東京エレクトロン(TEL)は、エッチング、成膜、塗布現像などの半導体製造装置を供給する日本の装置メーカーである。PFASを製造する企業ではないが、半導体の製造には、エッチングに使うフルオロカーボン系のガス(CF₄、C₄F₈など)や、装置の温度制御に使うフッ素系の熱媒体が使われる。米国半導体工業会(SIA)のPFASコンソーシアムは2023年の報告書で、熱媒体について、一部の用途では必要な性能を同時に満たす、PFASを使わない代替が現時点でないとしている。TELは環境ページで、PFASについて含有の有無を調べたうえで代替化を進めると述べており、統合報告書2025でも、PFASなどの規制の情報収集を早めて対応するとしている。エッチングでは、TELの公式ブログ(2024年10月)によると、極低温のプロセスでCFガスの91%をフッ化水素(HF)ガスに置き換えられ、深さ10μm超のコンタクトホールを従来の2.5倍の速度で加工し、消費電力を従来比で40%以上減らせるという。同ブログは、2024年8月時点の見通しとして、2025年に低量産、2026年に高量産を始めるとしていたが、TELの2026年7月30日の決算説明会では、NAND 400層向けの極低温エッチング装置の量産展開はCY2027から始まると説明されている。報道によると、SK hynixが試験用のウェハで、Samsungがデモ機を導入して評価している(2024年5月)。なお、置き換えの割合は91%であり、CFガスの使用がなくなるわけではない。
🎯 主な取り組み・施策 極低温のプロセスで、エッチングに使うCFガスの91%をHFガスに置き換える技術を開発(加工速度は従来の2.5倍、消費電力は40%以上削減と公表) NAND 400層向けの極低温エッチング装置の量産展開は、CY2027から始まるとTELが説明(2026年7月30日の決算説明会。2024年8月時点の見通しは、2025年に低量産、2026年に高量産) 環境ページと統合報告書2025で、PFASは含有の有無を調べたうえで代替化を進め、規制の情報収集を早めて対応するとしている 統合報告書2025で、NAND向けの極低温エッチングの開発を強化する方針を示す ⚠️ 継続する課題・リスク• 熱媒体の代替:SIAの2023年報告書は、一部の用途では、必要な沸点・流動点などを同時に満たす、PFASを使わない代替がないとし、代替の開発には10〜12年以上かかると見積もっている。SIAのコンソーシアムは2026年3月に、シリコーンオイル系の熱媒体を代替とする研究を公表したが、これは業界団体の取り組みである。 • 極低温エッチングの普及:SamsungとSK hynixは評価の段階と報じられている(2024〜2025年の報道)。TELは、NAND 400層向けの量産展開をCY2027からと説明しており、採用が広がるかは、今後の開示で確認する必要がある。 • CFガスの一部が残ること:置き換えの割合は91%であり、残りの工程には引き続きCFガスが使われる。 📢 2024年10月(極低温エッチングの技術公表)・2026年3月(SIAによる熱媒体の代替研究)・2026年7月(極低温エッチングの量産展開はCY2027からと説明)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-10-01
【GRI編集部コメント】
TELのケースは、装置メーカーのPFAS対応が、性質の異なる二つの課題に分かれることを示しています。一つは工程で使うガスの置き換えで、極低温エッチングのように、加工速度や消費電力の改善と合わせて進められ、規制への対応と装置の競争力が重なります。もう一つは装置内の熱媒体で、業界団体の報告書が一部の用途で代替が確立していないとしており、一社では進めにくい課題です。半導体メーカーと装置メーカーの双方にとっての示唆は、工程のガスと、装置内の熱媒体・部品を分けて、どこに代替の見込みがあり、どこが業界全体の課題として残るのかを把握しておくことです。
極低温エッチングの量産の時期や顧客の採用状況は変わる可能性があります。最新情報はTELの公式発表とSIAのPFASコンソーシアムの公表資料をご確認ください。
TSMC Taiwan Semiconductor Manufacturing Company 適応・整備中
TSMCは世界最大の半導体ファウンドリで、フォトリソグラフィ、エッチング、洗浄などの工程でPFASを含む材料を使っている。同社はPFASの管理を、発生源管理・業界協力・環境モニタリング・汚染防止の4つの戦略で進めている。新しい原材料については、炭素数5以上のフッ素化炭素を持つPFASを含まないことをサプライヤーに申告させ、炭素数4以下のPFASは開示させたうえで管理する。2018年にはPFOA関連物質を炭素数4以下の短鎖PFASに切り替え、フォトリソグラフィ用の薬品からも炭素数5以上のPFASをなくす検討を進めている。排水については各工場にPFAS処理設備を置き、独自の分析手法(ろ過直接分析法)を2025年3月までに国内外の全工場に導入して、検出にかかる時間を105分から15分に短縮した。
🎯 主な取り組み・施策 新規原材料の審査で、炭素数5以上のフッ素化炭素を持つPFASを含まないことをサプライヤーに申告させ、炭素数4以下のPFASは開示させて管理 PFOA関連物質を炭素数4以下の短鎖PFASへ切り替え(2018年) 排水中PFASの分析手法(ろ過直接分析法)を2025年3月までに全工場へ導入し、検出時間を105分から15分に短縮。第三者機関Eurofinsとの比較測定で信頼性を確認 PFASを含む工程排水を吸着ろ過で処理し、平均95%の除去率を達成(2024年年次報告書) 世界半導体会議(WSC)とSEMIが主導するPFAS対応計画に参加し、代替技術と環境モニタリング技術を業界で研究 ⚠️ 継続する課題・リスク• フォトリソグラフィ用薬品の置き換え:炭素数5以上のPFASをなくす検討は進んでいるが、光酸発生剤などを代替するには、材料の再配合と工程での再認定が必要になる。 • 短鎖PFASの位置づけ:同社は炭素数4以下のPFASを開示・管理の対象として使い続けているが、EUの制限案はPFASを炭素数で区別せず一括で対象としている。 • EU制限の適用除外の期間・条件:半導体用途の扱いはSEAC最終意見(2026年末見込み)と欧州委員会の判断で決まり、それまで材料調達の計画に不確実性が残る。 • 米国拠点での水と排出の管理:アリゾナでは立ち上げ時に使用水の約65%を社内で再利用し、2028年完成見込みの産業用水再生プラントで90%以上の再利用を目指す。NGOは、工場ごとのPFAS使用量と排出量の公開を求めている。 📢 2018年(PFOA関連物質の置き換え)・2025年3月(分析手法の全工場導入)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
TSMCのPFAS対応は「すぐに使うのをやめる」ではなく、「使う物質の種類を絞り、測り、除去する」という管理の考え方です。長鎖PFASを避け、使うPFASを炭素数4以下に絞ってサプライヤーに開示させる方針は、実務上の線引きとして分かりやすい一方、EUの制限案は炭素数で区別しないため、この線引きがそのまま規制上の安全圏になるわけではありません。材料メーカーや装置メーカーにとっての示唆は、納入する材料について、PFASに該当するかと炭素鎖の長さを正確に示せる体制が、取引の前提になっていることです。代替材料の量産採用も、最終的には同社のような大手ファブでの評価と認定を経て決まります。
先端半導体の製造には、代替が確立していないPFASの用途が残っています。最新の取り組みはTSMCのサステナビリティ報告書をご確認ください。
Samsung Electronics Samsung Electronics Co., Ltd. 適応・整備中
Samsung Electronicsは、韓国と米国テキサス州に半導体の製造拠点を持つ世界最大級のメモリメーカーで、ファウンドリ事業も手がける。半導体の製造では、露光、エッチング、洗浄などの工程や装置の冷却に、PFASを含む材料が使われている。同社のサステナビリティ報告書によると、半導体(DS)部門は全ての原材料サプライヤーを対象にPFASの使用状況を調査し、代替物質を特定・導入することでPFASフリーを目指している。半導体事業のサイトでも、国際的な環境規制を反映した社内基準で材料を管理し、PFASなどの新たな規制動向を継続的に監視しているとしている。また、3Mがフッ素系冷媒の製造から撤退したのを受けて、中国の化学メーカーが同社など韓国の半導体メーカーへの冷媒供給に参入していると報じられている。
🎯 主な取り組み・施策 半導体(DS)部門で、2025年に全ての原材料サプライヤーを対象にPFASの使用状況を調査し、代替物質の特定・導入によるPFASフリー化を推進(サステナビリティ報告書2026) 国際的な環境規制を反映した社内基準で材料を管理し、PFASなどの新たな規制動向を継続的に監視 東京でサプライヤー・サステナビリティ・サミットを開き(2025年5月)、日本の取引先約40社とPFASなどをテーマに協力を議論 ⚠️ 継続する課題・リスク• 代替が確立していない用途:露光材料、エッチングガス、装置の冷媒などには、PFASを使わない代替品がまだ量産で使える段階にない用途が残る(SIA半導体PFASコンソーシアム)。 • 冷媒調達の見直し:3Mの撤退後に入れ替わった冷媒もフッ素系で、調達先の地域的な偏りに加え、代替品そのものがEUの制限案の対象になり得る。 • EU制限の適用除外の期間・条件:半導体用途の扱いはSEAC最終意見(2026年末見込み)と欧州委員会の判断で決まる。 📢 2025年〜2026年(サステナビリティ報告書ほか)🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
Samsung Electronicsのケースは、半導体メーカーが規制の行方を見守る段階から、全サプライヤーのPFAS調査とPFASフリー化という能動的な対応に移りつつあることを示しています。一方で、3Mの撤退で空いた冷媒の供給を中国メーカーのフッ素系冷媒が埋めているという報道は、調達先を替えることがPFASからの脱却を意味しないことも示しています。日本の材料・部品メーカーにとっての示唆は、同社のPFAS調査に応えられるよう、納入品がPFASを含むかどうかと代替品の開発状況を整理しておくことです。
PFASフリー化の具体的な対象範囲と時期は、今後の開示で確認する必要があります。最新の取り組みはSamsung Electronicsのサステナビリティ報告書をご確認ください。
Intelは米国を本拠とする半導体メーカーで、2025年時点の主な量産工場はアリゾナ、オレゴン、アイルランド、イスラエルにある。先端ロジック半導体の製造では、露光材料、エッチングガス、装置部品などにPFASを含む材料が使われている。同社はSIA(米国半導体工業会)の半導体PFASコンソーシアムの創設メンバーとして、半導体製造でのPFASの用途と代替の可能性を整理する技術白書づくりに関わってきた。2022年には、特定のPFASを工場で使う材料として制限する社内方針を定めている。一方で、IntelやIBMなどが加わる化学品ユーザー団体(Chemical Users Coalition)はメイン州のPFAS製品規則案に意見を提出しており、業界団体を通じて州の規制の範囲や手続きに意見を述べている。
🎯 主な取り組み・施策 SIA半導体PFASコンソーシアムの創設メンバーとして、PFASの用途と代替の可能性に関する技術白書づくりに参加 特定のPFASを工場で使う材料として制限する社内方針を策定(2022年) PFASの削減・代替を研究する米国の官民プログラム(PRISM)への参加を表明(2024-25年報告書) 化学品ユーザー団体(Chemical Users Coalition)の一員として、メイン州のPFAS製品規則案に意見を提出 ⚠️ 継続する課題・リスク• 先端ノードでの代替:露光材料の光酸発生剤など、代替には材料の再配合と工程での再認定が必要な用途が残る。 • 州ごとに異なる規制:メイン州は半導体を広く適用除外としているが、州によって対象や手続きが異なり、製品や部材のPFAS報告・管理の負担が増える。 • EU制限の適用除外の期間・条件:アイルランドの工場はEUのPFAS制限の対象となり、半導体用途の扱いはSEAC最終意見(2026年末見込み)と欧州委員会の判断で決まる。 📢 2022年(PFAS使用制限の社内方針)・継続的対応🕐 最終検証: 2026年9月検証🔍 Last source review: 2026-09-29
【GRI編集部コメント】
Intelのケースは、同じ企業が「PFASの代替研究を進める側」と「規制の範囲に意見を述べる側」の両方に立っていることを示しています。業界コンソーシアムで用途と代替の可能性を整理しながら、州法やEUの規制では半導体の扱いについて業界団体を通じて意見を出す――これは、代替が確立するまでの時間をどう確保するかという、半導体業界に共通する課題への対応です。材料メーカーや装置メーカーにとっての示唆は、自社の製品がこうした業界の技術白書でどの用途に位置づけられているかを把握し、代替品の評価に協力できる体制を整えておくことです。
Intelは事業の再編を進めており、製造拠点や方針が変わる可能性があります。最新の情報は同社のコーポレート・レスポンシビリティ報告書をご確認ください。